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うちのシェフ紹介

販売開始してからお客さまに「どんな人がレシピ作ってるの?」と、よく聞かれます。たしかに、山飯としてはかなり異色なメニューも多いので、そういう疑問が湧くのも納得です。

そこでここではマウンテン グルメ ラボでレシピ開発を担当してくれている田嶋シェフの料理をご紹介したいと思います。
田嶋シェフが営む下北沢の「namida」のペアリングコースをプロデューサー/食いしん坊担当の三好が堪能。うちのシェフ、こんなにスゴイんです! という手前味噌な企画ですが、気になった方はぜひとも一度namidaでシェフの料理を食べてみて欲しいんです。

 

織田信長を唸らせる!?
namidaのコンセプトとは?

 

昔の和食をトレースするのではなく、時代にあった料理というのが大きなテーマです。食や芸術といった、日本の文化がもっとも華々しかった時代って安土桃山だと思うんです。その時代に最先端を行っていた織田信長や千利休がタイムマシンで現代に来て、僕の店に飲みにきてくれたとします。そのときに昔ながらのことばかりしていたら「お前、まだそんなことやってるのか?」と言われてしまいそうですよね。
今の時代に料理をしている人間の役目としては、彼らに「それどうやってやってるの?」と言わせないとダメだと思うんです。うちで「なにそれ?」というメニューが出てくるのはそういうことを意識しているからなんです。

街場のレストランである、というこだわりもあります。自分がやりたいことを表現するというよりは、月一くらいで通いたいなと思ってもらえるようなお店であることはずっと意識しています。価格帯も自分へのご褒美としてちょうど良いところで設定していますしね。

美味しいにもいろんな要素があると思うんですけど、僕が大切にしているのは「未知への感動と既知への安堵」。
この2つが揃ったときに、心に響くのではないかなと思っています。

           ※

さて、ここからはいよいよnamidaペアリングコースのはじまりです。
田嶋シェフのコメント付きでどうぞ。

 

一品目:子持ち昆布のフライ
with
ステファン・ティソ/クレマン デュ ジュラ

 

 

子持ち昆布のフライに、芽が出ているくわいを添えています。目出たくて、よろこんぶ、ということで。
ペアリングしたお酒はフランス・ジュラの「ステファン・ティソ」のスパークリングワインです。ジュラ特有の怪しい香りがあります。昆布についたニシンの卵のブチブチっとした食感と、パン粉のカリカリ、スパークリングワインのパチパチ。テクスチャーで合わせています。
味のバランスとしては、ワインに濃い旨味があるので、昆布とニシンの卵を揚げて、油を絡ませていることによって、よりリッチな味にしています。

一品目でフライというとちょっと意外かもしれませんが、食事に来てくれるお客さまは、たいていが仕事終わりのタイミングです。そこでなにがまず食べたいかと言ったら、淡いさっぱりしたものではなく、例えばビールと唐揚げですよね。しっかり食べ応えがあるものだと思うんです。スナッキーなもの、と言い換えても良いかもしれません。それの最上級を目指しました。

 

二品目:からすみ餅
with
奈良萬  無ろ過生原酒(夢心酒造)

自家製のからすみと餅に自家製のかえしを塗り、小豆島の海苔で包んでいます。からすみと餅の贅沢な味わいに、無ろ過生の「奈良萬」を合わせました。タンクの真ん中あたりのものだけを使用していて、メロンセーキのような独特の爽やかさがあります。餅とからすみって、単体で食べると苦いんです。でもこの奈良萬と合わせると、その苦味を上手い具合に相殺してくれて、お互いの風味がさらに活きるんです。

これは御凌ぎ、という立ち位置で、会席料理で先付けの後にでるちょっとした軽食です。お寿司などが出ることもありますが、それを餅でやっています。自由にやっているようで本歌取りはしているんです。それを元に独自解釈で広げていっているイメージです。

 

三品目:小田原産真鯛の湯引き
with
アレクサンドル・バン/ピエール・プレシューズ

下にフキノトウ黄身酢を敷いて、上から土佐酢のジュレを乗せています。酸のバリエーションを楽しんでいただきたい一品です。
土佐酢の、鰹由来のコク深い旨味と酸味、ワインのミネラル感ある酸味とソービニヨンブランの爽やかさ、下にはフキノトウの青苦さと黄身酢のコクのある酸味。酸味にバリエーションがあることで飽きずに食べ進めていくことができます。
土佐酢をジュレにしているのはどうしても上に乗せたかったからです。レイヤーを作ることで口の中に入れた時に驚きを演出したかったんです。

四品目:スッポンで炊いた筑前煮
with ゆうま(七曜酒造)

福岡で筑前煮のことをがめ煮というんですが、スッポンで炊いて、ほんとうに“亀煮”にしてみました。具材に春を感じさせる空豆と、ひっつみを入れました。お酒は福岡の「ゆうま」。
最近注目されている、酒椀というお酒用のお椀に入れることによってすごくジューシーさが引き立つお酒です。福岡のお酒と福岡のがめ煮。本来のがめ煮とは見た目がまったく異なるんですが、味にフォーカスして欲しかったので食感を捨てました。食感はひっつみのもちもち感に集約しています。

 

五品目:牡蠣の松前焼き
with
小笹屋竹鶴 純米原酒(竹鶴酒造)
 

真ん中の舞茸は70度で蒸して、鰹出汁に浸しておいたものを牡蠣と一緒に昆布で挟んで焼いています。その上で薬味を乗せて、また昆布を戻しています。合わせるお酒は「竹鶴」の熱燗です。
米は大和雄町(広島県加茂郡大和(だいわ)町で契約栽培された雄町米)を使っています。小笹屋竹鶴は、かなり熱めにお燗してもバランスが崩れないんです。甘さも吟醸感もないので、究極の食中酒と言っても良いんではないかと思う味わいです。
さきほどの「ゆうま」はモダンな日本酒ですが、これはクラシック。それをトラッドな飲み方で楽しむ。日本酒の多様さを楽しんでもらいたいというのもあって、このタイミングでお出ししました。牡蠣のコハク酸、舞茸のグアニル酸、鰹出汁のイノシン酸、そして昆布のグルタミン酸いう4種の旨味と合わせるなら、これくらいドシッと強い熱燗じゃないと負けてしまうんです。

 

六品目:namida式すき焼き
with
マチルド・エ・ステファン・デュリウ/ル・イ・エ・チュ

 

僕がすき焼きを作るとこうなるんですよね。
焼いたネギと春菊を割り下で炊いて、さらにその割り下で椎茸と豆腐を炊いています。ネギと春菊は和牛でくるんで、網脂で包んで焼いています。すき焼きって焼いていたよな、っていう所に立ち戻りたくて、こういう作り方にしています。最後に掛けたのはトマトパウダーです。
合わせたワインは、自分にとって昔のナチュラルワインを好きになった頃の味がするんですが、「赤い果実を摘んできて、天然酵母で発酵させたらこんな素敵な液体になるんじゃないか」という僕の勝手なイメージ通りの味がします。
肉料理というと重いイメージがありますが、このすき焼きに関しては黄身酢の酸と、トマトの爽やかさがあるので、実はけっこうあっさりしています。肉の量自体もそんなに多くないので、ワインも重たいものではなく、アタックが優しいものを選んでいます。香ばしさと酵母感の相性も良いですしね。

 


七品目:里芋の石垣寄せ
with ロマン・セー/ブルゴーニュ・ブラン

里芋を含め煮にしたあと、燻製して、カマンベールと一緒に石垣寄せにしました。上に乗せているのは金山寺味噌とピンクペッパーです。
ピンクペッパーを南天の実に見立てて、南天の葉を添えました。ワインが持つ、樽とミネラルのビシッとした硬質な感じと、料理のスモーキーさが良く合うと思います。チーズを合わせたのもワインとの相性を高めるためです。
お酒をいじることはしませんが、自分の料理側を調整することで、相性をより良くするのも料理人の腕の見せ所だと思っています。

 

 

八品目:山椒ご飯のネギマ丼
with
アレッサンドロ・ヴィオラ/ノーテ・ディ・ロッソ

マグロを幽庵漬けにして、さらに菜種油を足すことによって、酸化しないようにしています。マグロの美味しさは血の酸味と旨味なので、酸化してしまうと文字通り味も錆びてしまうんです。そのマグロと一度70度で蒸したネギを炭で炙っています。ご飯は山椒と出汁で炊いた山椒ご飯。合わせたのはシチリアの赤です。
シチリアってマグロの卵のからすみや、マグロの生肉をハムにしたものなど、マグロをよく食べる文化があります。そういう文化背景的にお酒を合わせたりもしますが、やっぱり相性が良いんですよ。このワインは最初は甘いトーンで始まるんですが、芯にあるのは火山性のミネラルを感じる赤。マグロの脂味と上手にマッチしてくれました。

 


九品目:黒豆の栗きんとん
with
ドメーヌ・ド・ラ・ボルド/マクヴァン・ドゥ・ジュラ・ブラン

中は黒豆のペーストになっています。実は炊いたときにシワが寄ったりした黒豆っておせちには使えないんです。その時に外された豆は「除け豆」といって、魔除けの御利益があるとされる。その除け豆を食べて欲しくて考案したデザートです。
これにマクヴァンという、いわゆる酒精強化ワインを合わせています。ブドウが持っている自然の甘さがそのまま残っているので、デザートワインとしても優秀です。

 

 

 

締めのお茶:しもきた茶苑大山のほうじ茶

すべては最後のお茶のために、です。和食の場合は。

煎茶で美味しいものもあるんですが、夜に飲むものとしてはちょっと強すぎるので、ご近所でもある「しもきた茶苑大山」さんのほうじ茶をセレクトしています。しっかり締まるんですが、エスプレッソより体に優しい感じですね。

今回ペアリングしたお酒たち。左から提供順に。


■店舗情報
namida(HP)※完全予約制

住所 155-0031 東京都世田谷区北沢2-28-7
TEL 03-6804-7902
営業時間 18:00〜
25:00
定休日 不定休(instagramで告知)

Text/Takashi Sakurai
Photo/Hinano Kimoto