オリジナル商品

山の上で緊急対談!
MOUNTAIN GOURMET LAB.はこうやって生まれた!

三好拓朗 (みよし たくろう)
PARK Inc.代表。茅乃舎、下北線路街、メルペイなど、商品/サービス/企業のブランディングを手がける。最近、山にドハマリして、最近は隙あらば山に逃げ込みがち。「MOUNTAIN GOURMET LAB.(MGL)」の発起人で、自他共に認める食いしん坊。万歳。
田嶋善文 (たしま よしふみ)
下北沢の小料理屋「namida」のオーナーシェフ。日本料理とイタリアンのシェフ、そしてソムリエというキャリアを経て、現在に至る。和食をベースにしながらも、独自性の高い料理の数々を提供している。「MGL」ではレシピ開発全般を担当している。

数々の困難を乗り越え、ようやくリリースに漕ぎ着けた「MOUNTAIN GOURMET LAB.(MGL)」。その誕生の裏側には、中心メンバーである三好と田嶋の涙ぐましくもお腹いっぱいな数々のエピソードがあった。

なぜ山飯に手を出してしまったのか……

三好拓朗プロデューサー(以下、三好):3年前の秋に高尾山に登ってから山にドハマリしたんです。だからまだ登山自体の経験はぜんぜんなんですが、はじめての縦走で瑞牆山〜甲武信ヶ岳を歩いたんです。その時に、こんな最高の景色で、最高の山飯が食いたい、と思ったのがそもそもです。

田嶋善文シェフ(以下、田嶋):三好さん、めちゃくちゃグルメですもんね。

三好:グルメというか、食いしん坊と言ったほうが正しいかもしれません(笑)。でも何度か山に行くうちに「山の上ってレストランとして最高の立地だぞ」と思ったんです。よく山の上ではなんでも美味い、みたいなことが言われるんですが、こんなロケーションでご飯を食べられる場所ってそうそうありません。そこから、茅乃舎さんの贅沢にゅうめんとか、いわゆる山飯ではないんだけど、山に持って行けて美味しいものを探りはじめました。
世界中から山飯を買い漁って食べまくってみたりもしました。でも、なかなか満足できるものが見つからないうえに、下界で食べるにはカロリー高すぎて(笑)。

田嶋:三好さんがどんどん巨大化していったと(笑)。

三好:もともとはダイエット目的で登山を始めたってのもあったはずなんですが……。

田嶋:逆効果(笑)。

三好:そんなこんなでいろいろ調べていくうちに、大規模な設備を必要としない山飯の作り方があることを知ったんです。じゃあ、自分たちで試しになにか作ってみようということで、僕がよく行っていた料理屋さん「namida」のオーナーシェフである田嶋さんに相談しにいったというワケです。

田嶋:僕自身は山登りはしたことがなかったんですが、その頃キノコとか野草の勉強をしていたタイミングだったんです。自然の中に入って調達してきた食材を現地で調理できたら格好いいぞと。絶対にモテモテじゃないですか(笑)。
でも、アウトドアはまったくのシロウトですから、まずはキャンプができるようになろうと。そうしたら三好さんに、山は良いよ、山は良いよと耳元で囁かれ続けて、ついつい登っちゃったんですね。

三好:一緒にいきなり蝶ヶ岳に行ったんですよね。

田嶋:そうそう。デザイナーの松原さんも一緒に。その時いろいろと既存の山飯も食べてみたんですが、料理人の目からみると、山飯って要するに事前に仕込んだものを、山の上で簡易的に調理してるってことなんです。あ、これなら自分にもできることがありそうだぞ、と。料理人として長年培ってきた仕込みの力を駆使すれば、テント場でも最高に美味いものが食えるんじゃないか、という風に思ったんです。

三好:「MOUNTAIN GOURMET LAB.(MGL)」という名前にしたのも、山の食文化を変えたいという思いを込めてます。その方法をいろいろと実験しながら探っていくラボというイメージです。

田嶋:でも、そもそもなんで僕に声をかけてくれたんですか?

三好:田嶋さんのお店で出してる料理って、ロジカルで自由なんです。最適な食材の水分量や調理温度を常に追求していて、食材の組み合わせも面白い。常識の範囲内ではなく、理想の完成形から逆算して、自由自在に組み立てていく。
山飯って食材だけでなく、制限される度合いで言えば、トップクラス。そんな環境下において美味しい山飯を作るには、日常的に工夫している田嶋さんのような料理人こそ最適なんじゃないかと考えたんです。

田嶋:天才ですから(笑)。

 

ディハイドレートという沼にハマって

三好:山飯ですからただ美味いだけではダメです。ウルトラライト系のストイックな人たちも重さを気にせず携帯できて、水だけで簡単に作れる、というのはマストな課題でした。

田嶋:三好さんの最初のオーダーも面白かったなあ。「最高のロケーションのレストランがあります。でも、それがある場所は遠く、どんな重い食材も自分で担いで持って行かなければならないし、新鮮な食材はすぐに腐ってしまう。そんな場所で、田嶋さんだったらどんな料理を出しますか?」って。じゃあ腐らない料理を仕込むしかないな、ということで、ディハイドレートを試しはじめました。

三好:沼、でしたよね(笑)。

田嶋:ディハイドレートっていうのは、通常の食品を乾燥させて水分を抜いて、食べる時に水分を戻して復元させることなんですが……。

三好:言葉だけだとめちゃくちゃ簡単そうなんですけどね(笑)。

田嶋:最初、ボンカレーをディハイドレートしてみましたよね。

三好:蝶ヶ岳の上で食べましたねえ。登山後だと甘口のボンカレーに唐辛子トッピングがやたらと美味かった。甘さと辛さのバランスが最高。嗚呼、思い出したらヨダレが……。

田嶋:ボンカレーのレトルトを開けて、具とソースを分けてディハイドレート。炊いた白米もアルファ化して。それで離水率を調べて、どのくらい水が減ったのか測るわけです。じゃあ、同じ量の水を戻せば、元通りの味になるかというと、そうならない。

三好:沼のはじまりですね。

実験段階で、レトルトのボンカレーをディハイドレートしたのがこちら

田嶋:例えば100g水を抜いたんだから、100gの水で戻せば良いかというと、そうじゃない。それだと若干薄まるし、味がぼやける感じがあるんです。


三好:いわゆる乾物は味が濃くなりますよね? あれとは違うんですね。

田嶋:出来上がった料理をディハイドレートした場合は違うんですよ。じゃあ、戻す時の水を減らせば良いかというと、それだと食感が戻らなかったりする。そのバランスの追求にはけっこう時間がかかりましたね。

三好:他にもいろいろディハイドレートしましたよね。

田嶋:いろんな麺もやってみましたね。焼きそばの麺と中華麺ではどう違うのか、とか。

三好:その実験段階で作ったマーラー麺とか、めちゃくちゃ美味かったですよね。嗚呼、あれまた食べたい。

田嶋:麺はパッキングの問題がありますからね。すぐに折れてしまうし、商品化に持って行くのはハードルが高い。かさばってしまうのは山飯には向かないですしね。そこは今後の課題だと思ってますが、麺はやりたいですね。

三好:だから既存のものはショートパスタ系が多いんですね。

田嶋:どうしてもそうなってしまうんでしょうね。うどんにしても生麺から水を抜くのと、乾麺を一度茹でてから抜くのでは違うのか、とかいろいろやりましたね。

三好:めちゃくちゃ実験っぽかったですよね。そのお陰でいろんな試作品が食べられて僕的には嬉しかったですけど(笑)。

田嶋:そういう実験をいろいろとやって、だいたいディハイドレートの仕組みが分かってから、ようやく試作を作りはじめました。

三好:最初のほうはかなり緻密に計算して作ってましたよね。

田嶋:そう。でも計算どおりにやってもどうしてもうまくいかなかった。だから最終的には直感頼りで作ってみたら、バッチリはまったという(笑)。というか、さっきからずっと食べてますけど、話聞いてます?

三好:もぐもぐ。えっ? なんでしたっけ?

田嶋:料理人の勘と経験則がモノを言ったって話ですよ!

三好:そうでした(笑)。MGLは基本的に250ml前後の水と15分の調理時間で完成するのもいいですよね。

田嶋:やっぱり山で食べるものとしては、そのくらいの水と時間で作れないとダメだと思うんですよね。

三好:待ち時間が長いのは我慢なりません!

田嶋:三好さん、最近試作品を食べ過ぎて、ちょっとおっきくなってきたんじゃないですか? 僕がディハイドレートしてあげましょうか?

三好:水抜きってやつですね(笑)。

実験の末に生み出された試作品の数々

三好:ここまで来るのにいろんなメニューを考えましたよね。嗚呼、どれも美味かったなあ。最初はカレーでしたよね。

田嶋:台湾ミートココナツキーマカレー麺ですね。

三好:あれを蝶ヶ岳で食べたときに「このプロジェクトはうまく行く!」と確信したくらいインパクトありました。
ラザニアなんてのもありましたね。あれの試作、久しぶりに食べたらめちゃくちゃ美味しかったですよ。

田嶋:ラザニアのシートを破って、ソースと混ぜて食べるやつですね。チーズも乾燥して入れてみたんですが、チーズを入れるとクッカーにこびり付いてしまったんです。

三好:クッカーをできるだけ汚さないというのもMGLのこだわりのひとつですもんね。

田嶋:油もできるだけ少なくして、拭くだけでクッカーが綺麗になるようなメニュー作りもテーマのひとつですね。

三好:ほかにもフィッシュケーキカレーっていうのもありました。

田嶋:パクチーを練り込んだすり身を具材にしたカレーですね。もうちょっとコクとか旨味を出したくて、いったん休止中です。他にも頭の中は試作したいものでいっぱいですよ。

三好:いつでも試食体制は整ってます! あと悩んだところとしてはボリューム感ですよね。

田嶋:そうですね。山飯って残せないじゃないですか。だから多すぎず少なすぎず、そのバランスは重視しました。

三好:大食いの僕はペロッといけちゃいますけど、食の細い人2人だったらワンパッケージで満足できる量ですよね。

田嶋:ちょうどお米の量が乾燥時で70gですから、女性にとっての大盛り、くらいのイメージでしょうか。

三好:僕は2パックくらい一気に行けちゃうなあ。

田嶋:そのうち、本気で自分をディハイドレートしないと山登れなくなっちゃいますよ……。

 

ゆくゆくは山行自体をレストランに

三好:最終的には行動食含め、コースとして提供していきたいですねえ。

田嶋:山行自体がレストラン、みたいなことになると面白いですよね。山の香りとか、その時期に咲いている花の香りなどを楽しんだ後にマッチする山飯。そういうところまで行きたいですよね。

三好:山とのペアリングですね。たとえば北岳用とか槍ヶ岳用みたいなシリーズも作ってみたい。いまの商品パッケージにも田嶋さんがイメージした山の名前も小さく載せてますしね。

田嶋:あとは持って行くお酒に合わせた山飯シリーズ。他にも、下山途中に食べると山の余韻が感じられる行動食とか。

三好:そうやって考えていくと、山飯ってめちゃくちゃ奥が深いですよね。場所はもちろん、天候などによって食べる状況自体が変化するので、バリエーションは出しやすいと思うんです。

田嶋:三好さん的にMGLで一番こだわっている部分ってなんなんですか?

三好:美味い。これに尽きます。レストランで提供しているようなクオリティの料理を山に持って行けるようにする。

田嶋:現状での課題っていうとやっぱり……

2人声を揃えて:生産体制(笑)。

三好:工程もこのマガジンでちょろっと公開したいなと思ってるんですが、すごい手間かかってますもんね。

田嶋:ぜひ公開してほしい。そして苦労を見て欲しい(笑)。1回料理を作って、それをディハイドレートするだけでも大変ですが、食材ごとに最適な乾燥方法を選んで、バラバラに調理して乾燥させて、それをまた計ってパッキングするっていう……。

三好:そんなことをやってくれる工場に出会うだけでもほぼ1年半以上かかりましたよね。それでもまだまだ大量生産はできないし、原価率が……。だからちょっと高めの価格設定もご容赦いただきたい(笑)。

田嶋:そのくらいの手間はかかってますし、もちろん味に関しても自信があります。

三好:ゆくゆくは海外にも販売網を広げていきたいですよね。

田嶋:世界中の山々で自分たちの作った料理を食べている。想像するだけで料理人としてはワクワクしますよ。三好さんは、MGLにどんな未来を見ているんですか?

三好:山の楽しみ方っていうのをもっとわがままに広げていきたいって夢があるんです。ひたすらピークを求めるストイックなアルパイン的な登山から、ピークハントだけじゃなくって、自然をより軽やかに長く歩くって楽しみかたを伝えてくれたウルトラライトが出てきて、山の楽しみ方もバリエーションが出ましたよね。でもどちらも目的のためには、なんらかを取捨選択していくストイックさがある。
それはそれで素晴らしいし、かっこいいなと思うんですが、生来脳天気な遊び人の自分としては、もう少しわがままに、山も、その山行のプロセスも、全部を楽しみ尽くしたいなって思って。
それぞれのスタイルでストイックにギアや携行食を選んでいくんだけど、そこで諦めなきゃいけないものを僕らの工夫で少しでも減らしたいと思ってます。

田嶋:素晴らしいですね。

三好:とかカッコつけて言ったけれど、この体型では重いもの持ってくのきついんでなるべく軽くしたいけど、食事だけはどうしてもむちゃくちゃうまいと思うものを食べたい、っていう極々個人的な欲求が原動力ですね(笑)。何でも欲しがるわがままな人間の挑戦です。


Photo/Hinano Kimoto
Text/Takashi Sakurai

 

Text/Takashi Sakurai

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