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山の上でレストラン!
メインビジュアル撮影の裏側

車内は絶望感に包まれていた。
まさかの台風の襲来。
こりゃ無理だろう、と誰もが薄々思っていた……。
「MOUNTAIN GOURMET LAB.(以下、MGL)」のメインビジュアルの撮影前日、太平洋で発生した台風が日本に上陸。なんとか過ぎ去ったものの台風一過の晴天とはならず、出発時はまだまだ嵐の気配がガッチリ残っていた。
撮影メンバーは、プロデューサーの三好、シェフの田嶋を中心に、フォトグラファー2人、歩荷要員など、あわせて総勢11名という大所帯。
今回の登山の目的は、「山の上のレストラン」というコンセプトをビジュアル化することにあった。スコーンと抜けた青空の下、山ではありえないような豪華なテーブルセットで、開発担当シェフ・田嶋が差し出すMGLをプロデューサー・三好がこれ以上ないくらいに美味そうに食す。最高の景色と最高の料理のマリアージュを楽しむ、かなりインパクトある絵になるはずなのだが、山の選定が難しかった。最終的に残ったのは日光白根山、木曽駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、そして硫黄岳。
数日前から山の天気予報とにらめっこして、いちばん天候の安定しそうな硫黄岳を選んだのだが……。

メンバー全員で輪になって、出発前に気合いを入れる。写真真ん中でガッツポーズをしているのがプロデューサー・三好。その左がシェフの田嶋。雨のせいでテンション低め?
シェフの田嶋を先頭に樹林帯を登って行く。まだまだ余裕の表情。

桜平の登山口に着いた頃には、若干雨足が弱まってきた。
これならいけるかも、という判断のもと全員レインウェアを着込んで歩き出す。天候待ちをしていたので、時刻はすでに11時。初日の撮影は諦めて、とりあえず硫黄岳山荘まで辿り着きたい。

椅子(折り畳めない)、テーブル(分解できるけど10kgある)、その他の撮影小物(大物?)で、歩荷の間島さんの背負子は、もうとんでもないことになっている。途中ですれ違った登山者が驚愕の眼差しで聞いてきた。
「え? なにしに行くんですか?」
たしかにね……。

歩荷を担当してくれた、山のなんでも屋さん「山屋」所属の間島さん。小柄なのにめちゃくちゃ強い。

夏沢鉱泉を過ぎたあたりで、雨がやんだ。純粋な登山であれば、しっとりと濡れた樹林帯歩きは、とても気持ちが良い。苔も元気いっぱいなんだけど、今回は晴れを狙った撮影。黙々と歩を進め、オーレン小屋の前で昼食を摂ることにする。

オーレン小屋で遅めの昼食を摂る。いろんな山飯を各自で調理してシェア。

この日のメニューは、三好が以前からリサーチのために買いためていた海外の山飯たち。かつての海外系山飯は経験上激マズなことも多かったんだけど、最近はかなり進化しているようで、いずれも悪くない。中には駅弁などで見かけるような加熱式のものもあって、クッカーやバーナーいらずで食べられる。レパートリーは日本の山飯よりも豊富かもしれない。ただし、ボリュームが半端ないので、今回のようにみんなでシェアするのがオススメだ。

Magazine制作担当の友永がチョイスしたのはクッカーいらずの加熱式パスタ。イロモノかと思いきや、予想以上のクオリティ。
デザイナーの松原はBREAKFAST SKILLET。卵がたっぷりのヘルシー系。このブランドは当たりが多い印象。

その後も順調に標高を稼いでいき、夏沢峠を過ぎたあたりから森林限界を越えてくる。本来ならこの当たりからバーンと開けた景色が望めるはずなんだけど……。
ガスガスの中を俯き加減で歩き続ける撮影メンバーたち。上がった息を整えるために、少し休もうと振り返ると、ガスがサーッと抜けていく。隠れていた山が次々と姿をあらわし、天狗岳も良く見える。こういう急変があるから山歩きは楽しいのだ。

稜線に出てしばらくすると、ついにガスが抜けた。ここまでの急登で体力は削られているけど、この景色に一同テンションアップ。
写真右から2番目がメインビジュアル撮影を担当する須田。渓流釣りが趣味。右端の田嶋は疲労困憊のフリをしてるだけ。カメラを向けるとすぐフザける。

その景色に後押しされるように歩を進めていくと、ついに硫黄岳の山頂に到着。
ここをロケ地に選んだのは、撮影していても邪魔にならないほど山頂が広々としていることも大きい。そしてすぐ前方には、赤岳を中心とした八ヶ岳の核心部がドーンと見える……はずなんだけど、またもやガスが湧き出してきて、赤岳の頂上がたまーにチラッと見えるだけ。
「少しだけ待ってみましょう」という三好の提案で、休憩を兼ねながら山頂で待つこと15分。
見えた! 青空のもと、とはいかないまでも、阿弥陀、赤岳、横岳と主役級が揃い踏み。手早くロケハンを済ませて、少し先の硫黄岳山荘へ向かう。
小屋に着く頃にはだいぶ天候も安定してきて、美しい夕陽と雲海を満喫。
これは、もしかしたら明日は晴れちゃうんじゃないか?

硫黄岳山頂に到着! 雲は多いが、一瞬だけ美しい稜線が姿を現した。
友永はまだまだ体力に余裕がある様子。試しに間島さんの背負子を背負ってみると……。「これは、無理ッス!」
そしてふたたび、赤岳はガスの中に。これはこれで格好いいんだけどねえ。
硫黄岳山荘から見えた美しい夕陽。翌日のメインビジュアル撮影に期待が高まる。

そして翌日。
むっちゃガス!! これでもかというくらいのガスっぷり。
なにはともあれ、向かわねばならない。小屋から20分ほど登り返して、硫黄岳山頂に立つと……。
これ以上ないほどの爆風! むっちゃ爆風!!
ただ、風があるということは、ガスが吹き飛ぶ可能性も残っている。
わずかな期待を胸に、各々が完全防寒スタイルで準備を進めていく。
三好と田嶋の準備はとくにハードスタイル。三好はスーツ、田嶋はシェフのコスチュームに着替えるという聞いただけでも震えがくるミッションがあるのだ。白シャツだから透ける、ということでデザイナーの松原から、インナーの着用禁止命令も飛び出す。
「ベースレイヤーの重要性をいま、文字通り体感している……」
寒風に吹かれながら三好がポツリ。
良い子は決して真似しないでください。

出発前に衣装にスチーマーを当てるスタイリストの三島。山小屋でやるとなかなかシュールな光景。
小屋から出発した直後は、ご覧の通りのガスっぷり。
衣装に着替える三好。素肌にドレスシャツはキツすぎる気温。フィッティングのタイミングから2kg増量していたため、パンツのウエストがギリッギリ!

メインビジュアル撮影担当の須田とデザイナー松原の指示のもと、テーブルや椅子のセッティングも進んで行くが、いかんせん爆風。テーブルクロスなんてもう、ちぎれそうなくらい、はためいちゃっている。
天候としては、たまーに赤岳の山頂が見えるという、チラ見せ小悪魔スタイル。
爆風の中、そのまま待機を続けるものの、その様相はもはやビバーク。三好と田嶋は何重にもエマージェンシーシートを体に巻き付け、モデルのサツキとスタイリストの三島にいたっては、用意していたフロアマット(三好が座ったら穴が空いちゃったのでボツになった小物)を風よけにするという、もはや粗大ゴミのような風体になってしまっている。
持参したガスバーナーを使って湯を沸かしまくり、ナルゲンボトルに注いで湯たんぽがわりにするものの、強風のせいであっという間に冷めていく。この山頂にいた時間だけで、通常の山行なら4日は余裕でもつOD缶ひとつが綺麗になくなった。

待機中の三好と田嶋はもはや遭難者のそれ。このロケでもっとも苛酷だった瞬間だ。
スタイリストの三島とモデルのサツキ。フロアシートを風よけにするの図。

この時、きっと誰もが思っていた。誰か撤退しようと言ってくれと……。そんなエクストリームな状況の中、耐え忍ぶこと約4時間。
その時はついに来た。ガスがサーッと抜けていき、まさかの青空まで顔を出したのだ。
いましかない!!
素早く配置についた三好と田嶋。先ほどまでに泣きそうな顔から一変、三好は満面に「美味い!」を張り付け、田嶋はクールにサーブする。まさにMGLにかける2人の情熱が伝わる瞬間だった。
フォトグラファーの須田は、これ以上ないほどの真剣な顔でシャッターを切りまくっている。
「撮れた!!」という、須田の声に、全員から歓声があがる。普段の登山にはない新鮮で強烈な達成感。苦労した甲斐があった。誰もがそう思っていた。
その後は各自転がるようにして小屋に戻り、冷え切った体をストーブで暖める。
もちろん、そこからは宴会に突入。苦労話に花を咲かせて、小屋の夜は更けていくのだった。

ついに撮れた瞬間! このメインビジュアルは、各分野のプロたちが力を合わせた結晶なのです! そしてありがとう八ヶ岳!

Photo/Hinano Kimoto
Text/Takashi Sakurai

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